音楽を通して世界を見るー白波瀬達也さんインタビュー
住む人が誇りを持てる地域に
■白波瀬さんは「DONUTS MAGAZINE」で、レコード屋さんの取材をされていますよね。記事ではお店がある地域のことをすごく詳しく書かれています。
白波瀬:僕はやっぱり『固有性』にすごくこだわっているんですよね。地域の固有性にも、人の固有性にも。レコード店の特徴や品揃えの情報を取り上げた記事でもいいんでしょうけど、それだけでは僕が書くには面白くないと思って。
だから、必ず店主の生活史を聞かせてもらいます。加えて、店主が地域とどういう風に絡んでいるのか。コミュニティの中でどう生きて、誰から影響を受けて、どこに通って…というストーリーを丁寧に書きたいと思っています。それが分かると、お店の見方が変わるし、イメージも豊かになるんじゃないかと。
人が見えること、人を通じて地域が見えることの面白さがあると思うんです。さらに、僕にとっては『生活史を聞く』のはずっと仕事でやってきたことだし。
■もともとの知り合いや、なじみのお店を取材しているのかと思っていました。
白波瀬:いや、全然違います。それじゃあすぐ終わっちゃうんで。だから、まずは自分がどういう人間か分かってもらうために商品を買って、お客さんになって、その上でお願いしてお話を聞かせてもらうことが多いです。
でも、僕も知らない土地を知れるし本当に楽しいですよ。誰が読んでんねんって弱気になる時もあるんですけど(笑)誰かに届けばいいなと思っています。
■白波瀬さんは音楽も好きだけど『音楽を通して世界を見る』ことが好きなんですね。
白波瀬:完全にそうですね。僕らが若い頃はインターネットもなかったから、他地域や外国の情報は本や雑誌から得るしかなくて。買ったCDのライナーノーツも穴が開くほど熟読して。簡単には分からない分、関心や想像力をすごくかき立てられましたよね。
■ブロンクスからヒップホップが、マンチェスターからストーンローゼスが生まれたというのは有名な話ですよね。だけど、釜ヶ崎からは新しい文化が出てきづらい雰囲気があるように私には思えて…それはなぜなのかなって思ってたんです。
白波瀬:少なくともこの半世紀くらいの釜ヶ崎は世代が再生産されないんですよ。中高年の単身男性が圧倒的に多くて、女性がとても少ない。つまり子どもが産まれることが少ない。
家族が地域で暮らし続けて、世代継承していくときに固有の文化が育まれていくと思うんです。 でも、釜ヶ崎の住人は自分一代で終わる人が多い。
ラッパーのSHINGO★西成さんはいますけど、やっぱり特殊な例だと思うんです。
1967年に発表された「釜ヶ崎人情」という歌では、貧しいながらも人情にあふれる町への愛着がうかがえます。漫画「じゃりン子チエ」のモデルになった町とも言われているんですよ。けれどその後、暴動のこととか、メディアで過剰に悪い面ばかり報道されて、釜ヶ崎はやばいとか近づきたくないというイメージに覆われてしまった。
住んでいる人たちも、必ずしもこのままでいいとは思っていないはずです。住民の大半はおじさんですが、実は子ども好きが多かったりするんです。気さくな人も多いのに「怖い」と誤解されがちなのが歯がゆいですね。
僕は、住んでいる人がポジティブな気持ちを持てる釜ヶ崎に変わって欲しいと思っています。そのために少しでも役に立てることがあればと、西成区特区構想という地域再生のプロジェクトにも参加させてもらっています。
現場で活動してきた経験も、研究してきた成果も生かして、行政の人たちや地域の人たちと対話していきたい。そして、釜ヶ崎に住む人たちにとって最も良いかたちで、現実的な変化を起こしていけたらと願っています。
とはいえ『貧困問題に関心がある人』って、まだすごく限られているじゃないですか。このパーティはもちろん音楽好きの仲間と楽しむ場なんですけど、自分が仕事でやってることを伝える場にもなってるんですよね。collectiveで出してるフリーペーパーで自分の書いた本の紹介をしたりもするし。
毎回40人くらいの、決して大きくはないパーティですけど、僕がそこに関わることで貧困などの社会問題に間接的に触れるきっかけになっていると思うんです。
これからやっていきたいことですか?うーん、今、やっぱり釜ヶ崎とか、自分が関わっている地域が良くも悪くも変わって行くのが分かるんですよ、すごいスピードで。その変化をちゃんと記録したいですね。あと、連載しているレコード屋さんの記事が、いつか本にできたらいいですね。
白波瀬達也(社会学者 / フィールドワーカー)
1979年生まれ。桃山学院大学社会学部准教授。社会学博士、専門社会調査士、社会福祉士。
都市問題・地方文化に関心を持つ社会学者。著書「宗教の社会貢献を問い直す ホームレス支援の現場から」(ナカニシヤ出版, 2015年)、『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(2017年、中央公論新社)など。「三度の飯よりレコード掘り」が信条。ジャズ、ソウル、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、アンビエントなどを好む。日頃は研究活動に従事しつつ、不定期で大阪や奈良でアナログレコードにこだわった音楽パーティを開催している。
http://collective-music.com
https://donutsmagazine.com/
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