2018-03-30

夜も昼も、人が出会いつながる祝祭を
ーDJ Matsuiインタビュー

名古屋駅西の「Glocal」は、連日海外からのバックパッカーで賑わうゲストハウス。1Fにはカフェが併設され、訪れた観光客と地元・名古屋の人が世界のビールを片手に語り合います。
「Glocal」のスタッフ、松井陽介さんは数年前から名古屋でボランティアでフェアトレードや国際交流のイベントをしてきた一人です。一方ではクラブでDJをするという顔も持ち、20年ほど前には名古屋のハウスファンにはまさに伝説として語り継がれているパーティ「LEGEND」ではレジデントDJをつとめていました。
ソーシャルな活動とDJ、ふたつの世界を行き来しているように見える松井さんの、これまでとこれからを聞きました。

interview with DJ Matsui
夜も昼も、人が出会いつながる祝祭を
text&edit:Yoshimi Ishiguro  photo:Satomi Enomoto

ローカルDJだけで全国から集客したパーティ「LEGEND」

■松井さんは、いまおいくつなんですか?

松井:2018年の3月で40歳になりました。

■DJを始めたのはいつ頃からなんでしょう。

松井:高校の友達の影響ですね。かっこいいから一緒に行こうよって誘われて、大須にあったPGっていうクラブに行ったのが最初です。
これがクラブ・ミュージックっていうのか、と初めて知ったけど、その時はあまり音楽に熱中することはなかったかな。音楽よりも、そこにいる年上の人たちに会えるのが面白くて。自分が知ってる大人や、サッカー部の先輩とかと全然違う。いい意味でも悪い意味でも世間離れした人がいて「なんだこの人たちは」と。
当時は特にファッションが好きだったんで、服屋の店員さんとかと仲良くなるのも楽しみでしたね。

■音楽というより、おしゃれな大人と知り合えるのが魅力だったんですね。
でも、サッカー部で、おしゃれで、夜遊びにも行って。今で言う、すごくリアルが充実した青春ですね。

松井:(迷いなく)そうですね、ハイ。
クラブの音楽で、最初にかっこいいなと思ったのはテクノなんです。ケン・イシイとかよく聞きましたね。その後、木村コウとか、EMMAとか、ハードハウスが好きになって。初めてDJをしたのはハードハウスなんですよ。

■それも高校の時?その頃からもう、レコードも買ってたんですね。

松井:高校は卒業してましたね。レコードも買い始めたばかりで、まだ30枚くらいしかないのにDJ始めたって感じで。機材も持ってないから、友達の家に行って練習して。でも、その後すぐディープハウスに傾倒していったんですよ。

■それは、何かきっかけがあって?

松井:きっかけは…ジョー・クラウゼルですね。彼のレーベル「スピリチュアル・ライフ」の曲を聞いて。Jephte GuillaumeのLakou-Aとか覚えてます?あの曲とか、必死になってレコードを探しましたね。

松井:この頃には、すべてのお金をレコードに使うようになってました。好きだった服も買わずに。それどころじゃない、レコード買わなくちゃって。

■じゃあ、ディープハウスにどっぷりはまって。そこからLEGENDでDJをやることになったんですね。

松井:当時、club JB’s1)名古屋市の中区役所の裏手・女子大小路にある老舗のクラブ。JB’sの入っている丸美観光ビルはdomina、eightなど個性の違うクラブも軒を連ねる。http://www.club-jbs.jp/は毎週金曜日がハウスの日だったんです。それによく行ってましたね。
後にLEGENDを始めるJinさんとTakahashiさんの二人とは、夜遊びを始めてすぐ知り合ってたんです。その頃、dramっていう小さいクラブにいいDJがいるぞって噂になっていたのがHATTORIさん。TakahashiさんがHATTORIさんを誘って、Jinさんがオーガナイザーになって立ち上げたのがLEGENDですね。で、何を思ったか、僕も一緒にやってくれって言われて。

LEGENDのフライヤー(イラストは松井さんによる)

■私もずっとテクノだったんですけど、ハウスを好きになったのはLEGENDがきっかけなんですよ。テクノのクラブってスポーツみたいというか、踊るにしてもみんなストイックな感じがしてたんです。
でも、ある時LEGENDに行ってみたら、さっき松井さんが言ったみたいな、昼間何してるかわかんない大人が、めちゃくちゃに酔っぱらって楽しそうにしてて。誰でもフレンドリーに話しかけてくれる雰囲気もいいなあと思って。

松井:テクノって自己陶酔というか、ひとりでもトランス状態になっていけるとこありますよね。LEGENDでやってたのは、親しみやすくて、みんなと一緒にワーッとなりやすい音楽だと思う。

■ディープハウスが持っている音楽の力がLEGENDの空気を作っていた、と。

松井:例えはよくないかもしれないけど、 J-POPに近いというか。メロディーがあってサビがあって、手を上げて盛り上がるところが分かりやすい。かと思えばキャッチ―な曲から一気にテクノっぽいシリアスでかっこいい曲につないだり。そういう展開が面白いよね。

■LEGENDは本当にすごかったですよね。JB’sのフロアには200人くらい入るのかな?松井さんがRelight my fireをかけて200人くらいがうわーって盛り上がってた時、バーの方には誰ひとりいなかったという。

松井:いま考えると、夢のようですけどね。いろんな人が来てて、面白かったですね。

■DJとしては、どういう気持ちだったんですか。

松井:必死でしたよね。もっとよくなるように、いろんな人がもっと集まれるようにとかは常に考えてましたね。特に初めの頃は、内装をどうするか、音楽をどういう方向性でやるとのかとか、めっちゃ入念に4人でミーティングしてました。次の日仕事なのに、深夜に。(笑)
でもLEGENDは5年…はやってないですね。僕が25、6歳くらいの時に終わったのかな。

■やめるきっかけはあったんですか。

松井:これ以上続けると、僕の中でLEGENDがLEGENDじゃなくなるっていう気持ちがあって。
最後の方は、だんだん人が減っていったこともあって、LEGENDが普通の週末イベントになっていくのが悔しかったというのはありますね。

■LEGENDは「普通のイベント」ではないと思っていた?

松井:例えばさっきの話みたいに、ハウスを知らずに遊びに行っても一緒になって盛り上がれる。そういうのって、海外の有名なDJが来たときはありますよね。でもローカルのDJだけで同じことはなかなか起きない。それを毎回表現できてたのがLEGEND。名古屋だけじゃなくて、北は北海道、南は沖縄まで全国からお客さん来てたし。もう今では信じられないけど、特に有名な人がいるわけでもなく、無名な3人のDJで。服部、高橋、松井。誰だこいつらっていう。(笑)

■当時はそうでしたよね。

松井:いいタイミングでできたというのもあったかもしれないですね。
やめる前の1年くらいは、僕が体調を崩してコンディションを整えたいなというのもありました。
LEGENDはストイックに、音楽で勝負していくパーティーだったと僕は思うんです。でも、DJって良くも悪くもその人の本性が出てしまうものなので。

■あれだけの人数と、毎回”本性”で向き合っていくというのは、確かにしんどいかもしれないですね。

松井:趣味でやるなら全然いいんだけど、あれは趣味の部分を超えてるところもあったから。仕事ではないけど、単なる趣味でもないみたいな。
でも、当時の名古屋のハウスの中では間違いなく一番だと思うし、あれを機に自分たちのお店を始めた人もいたし。そういう存在だったから、終わりもいさぎよくできてよかったかなと思っています。

≪次ページへ続く≫

References   [ + ]

1. 名古屋市の中区役所の裏手・女子大小路にある老舗のクラブ。JB’sの入っている丸美観光ビルはdomina、eightなど個性の違うクラブも軒を連ねる。http://www.club-jbs.jp/

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