音楽を通して世界を見るー白波瀬達也さんインタビュー
地下鉄堺筋線の北浜駅を出て、高層ビルを眺めながら難波橋を渡ると、古い蔵が立ち並ぶ静かな通りに辿り着きます。かつての問屋街の面影を残す一角にあるイベントスペース「雲州堂」で開催されているパーティ「collective」でDJをする白波瀬達也さんは、貧困やホームレス支援を専門とする気鋭の社会学者でもあります。
著書では入念なフィールドワークを通した個人への緻密な聞き取りと、歴史や統計データを通して政策や社会構造の変化にも言及することで、貧困の集中する大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん地区)の姿を立体的に浮かび上がらせています。
同時に「DONUTS MAGAZINE」では各地のレコード店をディープに紹介するライターとしても活躍。記事のすみずみから溢れ出る類いまれなレコードと音楽への愛、そして釜ヶ崎の人と地域への思いをお聞きしました。
interview with Tatsuya Shirahase
音楽を通して世界を見る
text&edit:Yoshimi Ishiguro photo:Katsuyoshi Takahashi
社会の周縁から鳴る音楽
■このパーティは今年15周年なんですね。
白波瀬:collectiveは同じ大学の音楽好きの仲間が始めたパーティで、僕は最初はお客さんだったんです。15年前から、このそろばん屋さんの蔵をリノベーションしたお店「雲州堂」でやっています。
僕は音楽好きなんですけど、足繁く夜遊びに出かけるタイプではなくて。でも、このパーティはクラブよりもリラックスした雰囲気があっていいなと思っていたんです。何回か来ているうちに「白波瀬もやらへん?」って誘われて、始まって1~2年目くらいからDJもするようになりました。
■昔から音楽が好きだったんですね。
白波瀬:母親が音楽好きな人だったんですよ。ブラコンとか好きで、80年代ソウルみたいな音楽がよくカーステから流れてたのを覚えてます。ダイアナ・ロス、ロバータ ・フラック、セルジオ・メンデス、スリー・ディグリーズ…とかのレコードが家にあって。あとニュー・ミュージック。井上陽水とか、五輪真弓とか、オフコースとか。そういうのに馴染んでたんで、音楽は小さいころからすごく好きでした。
それに、僕らが学生の頃は今と違って音楽はちょっと背伸びして聞くものだったでしょ。中一くらいから「洋楽聞かなきゃ」みたいな感じで。ある程度大人になったらそういうの嗜まなきゃって。(笑)
最初にマイケル・ジャクソンやプリンスのCDを買って、すごく気に入って。マイケルのリミックス盤の中に入ってたハウス・ミックス を聞いて、そこからダンスミュージックを知ってはまった感じです。流行っていたR&Bやヒップホップにものめりこみました。アシッド・ジャズも大好きでしたね。アナログレコードを初めて買ったのは中3の時。コロムビアの安いポータブルのレコードプレーヤーで聞いてました。
■その頃、多くの中学生はB’zとか聞いていたと思うんですけど…。話が合う友達もいたんですか。
白波瀬:1人だけですけど。大学生くらいのお兄ちゃんがいてる子で、僕より詳しかったんです。
自分は昔から適応力がないというか…。部活とかできなかったんですよ、運動は大好きなのに。野球やってもすぐやめちゃうみたいな。当時から周りに合わせるのが得意じゃなかったんですよね。中高生の時は数人の話の合う友達とだけ遊んで、めちゃくちゃいっぱい音楽聞いてました。部活もなくてヒマだったし 。(笑)
だけど僕自身は楽器を演奏するとか、バンド組むとか、スケボーやるとかは全然なくて、レコードだけ。根っからの『リスナー』なんですよ。ギターとかサンプラーでトラックメイクをやってみたこともあるけど、下手すぎてお話にならなくて。(笑)でも、今になって思うと、当時から『聞く』『解釈する』方が好きだったんでしょうね。
■研究者になろうと思ったのはいつ頃からですか?
白波瀬:大学2年生の頃ですかねえ。 大学では社会学を学んでいました。
今日もDJでUKのラヴァーズ・ロックをかけたんですけど、中学生の時イギリスの音楽にはまって「白人の国と思ってたのに、黒人のアーティストおるで」とか「ジャマイカじゃないのにレゲエやっとる、なんやこれ」って思ったんですよ。調べてみると「ああ、移民の文化があるんやな」って分かる。
アメリカの音楽でも、メキシコ系の人が作るチカーノ・ソウル、そしてサルソウル・レコードやハウスとか、キューバやプエルトリコからの影響を感じるものがたくさんあると気づいて。社会の周縁とされている場所にいる人たちが作った文化に強く興味を持つようになりました。
しかも、彼女ら彼らはラスタとかムスリムとか、特定の信仰にコミットしていることが多い。イスラム教に由来する言葉を入れてラップしたり。宗教と音楽と生活が密接に結びついていることも僕にとってはすごく新鮮で。だから、大学では民族や文化、宗教を勉強したいと思ったんです。
今、大学の教員しながらたまにDJしたりレコードのコラムを書いたりしているのは、僕の中では全然矛盾がないんです。10代の頃に面白いと思ったことを、ずっとそのまま掘り下げている感じなので。
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